ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Tiger's Wife”雑感(1)

 今年のオレンジ賞受賞作、Tea Obreht の "The Tiger's Wife" のペイパーバック版が意外に早く手元に届いたので、予定を変更してさっそく取りかかった。既報のとおり、アメリカのサイトでは、早くも今年のベスト10に推しているところもあるくらいで、とても評判がいい作品だ。
 今はまだ序盤なのでよくわからない点も多いのだが、それでもこれはけっこう面白い。フェアリー・テイルというのか、カフカ的な不条理小説というのか、とにかくケッタイな面白さだ。シュールな味わい、かな?
 わからない点のひとつはタイトルの「虎の妻」。冒頭、「虎が大好きで、自分も虎になりかけた」女の子の話がちらっと出てくる。が、プロローグで本編の内容を暗示するという例のパターンらしく、今のところ尻切れトンボ。しかしその後、虎の登場する場面がある。第二次大戦中、どうもベオグラードらしい街がドイツ軍の空襲を受け、動物園から虎が逃げ出すのだ。だが、激しい爆撃のあと市内で目撃された虎は、「ジョーク、狂気の産物、宗教的な幻覚」としか人々には思えなかったという。この話はさらに続きがありそうだが、ともあれ、これは戦争という「非現実的な現実」の象徴的な事件かもしれない。
 「虎の妻」の話は主人公の若い女医が少女時代、祖父から聞かされたものだが、その祖父がさる田舎町の診療所で死亡したところから本編が始まる。時は流れて戦後だ。女医は幼なじみのもう一人の女医ともども、これまた辺境の村にある孤児院に予防接種に出かけるところで、途中、何度か診療所に電話をいれるのだが、一向に相手が出てこない。このあたり、舞台が東欧の国らしいということもあって、ぼくはまっ先にカフカを思い出した。
 不条理な状況はまだほかにもある。女医が訪れた村のブドウ園で男たちが地面を掘り返している。戦時中に埋められた、ある男のいとこの骨を探しているのだという。一方、男の妻子は悪い病気に冒されているようなのに、男は治療をかたくなに拒否。
 それから、女医が祖父から聞いたもう一つの昔話もヘンテコだ。祖父は若いころ、なんと不死身の男に出会ったことがあるという。頭に銃弾を撃ちこまれても、池の中に沈められても、男は絶対に死なない。「叔父に死ぬことを禁じられた」から、なんだとか。棺桶の中から男が「水をくれ」と訴える場面など、オカルト映画そのものだ。しかしドラキュラではありません。
 …あちこちに話が飛んで下手くそな粗筋紹介だが、「ケッタイな面白さ」だけは伝わってくるだろう。以上のエピソードにどんな意味があるのかは皆目不明。今後の展開で明らかにされるものと思う。とても楽しみだ。