ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Tiger's Wife”雑感(2)

 やっと状況が少しのみこめてきた。昨日は、第二次大戦中、ドイツ軍の空襲を受けた街がブダペストらしいと書いたが、これは単純ミスで、ベオグラード。さっそく昨日の記事を訂正しておいた。
 勘違いに気づいたのは、主人公の女医の祖父がティトー元帥を手術して命を救った、というエピソードが出てきたからで、あわてて巻末を見たところ、作者 Tea Obreht は旧ユーゴスラビアで生まれ、ベオグラードで育ったという。例によって何の予備知識もなく読みはじめたあげくの凡ミスだが、今までの流れをふりかえってみると、たしかに舞台が旧ユーゴであることを示すヒントはいくつかあった。
 たとえば、「戦争」によって国家が分断され、祖父は名医でありながら、家族が「向こう側」にいるために大学病院で診療できなくなる。その「戦争」とは何となく第二次大戦のことかと思っていたら、中盤になって、それがじつはユーゴスラビア紛争だったという記述が出てきた。でもまあ、ぼくのように鈍感でなければ、国家の分断などから、とうの昔に気がついている背景だろう。
 「虎の妻」や「死なない男」など、「ケッタイな面白さ」を物語るエピソードもようやく一つの流れに収斂しつつある。ネタばらしにならない程度に書くと、主人公の女医が、何度電話してもつながらなかった田舎の診療所を訪れる。その町が何だか時間のひずみの中に取り残されたような印象を与え、ベルイマンの映画に出てくる夢の町、非現実の町みたいだ。カフカ的な不条理の世界と言ってもいい。この先、どうなるんでしょうね。