ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Anne Enright の “The Forgotten Waltz” (1)

 Anne Enright の最新作、"The Forgotten Waltz" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

The Forgotten Waltz

The Forgotten Waltz

[☆☆☆] 題材はいわゆるダブル不倫だが不潔感はなく、むしろ、愛の喜びと悲しみ、苦しみを芸術的に表現している点に好感がもてる。べつに目新しい話ではない。ダブリンに住む若い女が、結婚前に見そめた妻子ある男と恋に落ちる。単純明快な展開で、とくに劇的な事件が起こるわけでもない。ただ、文章表現としては見るべきものがある。ウィットに富み、切れ味鋭い、活き活きとした力強い文体で、女の揺れ動く心情が直截に伝わってくる。亡き父親や母親の思い出はリリカルに綴られ、しんみりさせられる。男の娘との微妙なふれあいも手に取るようにわかる。そういう技巧を楽しむ小説であり、それ以上の何ものでもないところが減点材料。英語は平明で読みやすい。