ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Major Pettigrew's Last Stand” 雑感 (1)

 Helen Simonson の "Major Pettigrew's Last Stand" に取りかかった。去る4月下旬から5月上旬にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門ベストセラー・リストに載っていた本だが、ハードカバーのほうは昨年、米アマゾンの年間ベスト10に選ばれている。何だ、今ごろ読みだしたのかい、と笑われそうだ。
 今はまだ序盤だが、これ、とてもすてきな作品です。ハートウォーミングという形容がぴったりで、主筋としては波乱ぶくみだけど、雰囲気はたぶんこのまま、最後までいい感じが続くことだろう。
 舞台はイギリスの小さな村で、そこに68歳の退役少佐、Pettigrew が住んでいる。妻は6年前に他界。今また弟が急死し、すっかり落ちこんでいたが、村のスーパーマーケットの店主で10歳年下の未亡人、パキスタン系の Mrs. Ali と次第に親しくなる。
 一方、死んだ弟の妻とその娘は強欲で、家宝である遺品の猟銃の扱いをめぐって少佐と対立。また、少佐の息子も打算が見え見えで、その恋人も少佐に思いやりを示さない。そんな家族関係のなか、少佐には、上品で気だての優しい Mrs. Ali と過ごすひとときが心の救いとなる。妻の死後、ずっと女性とのかかわりを極力避けてきたのだが…
 まあ、どうということもない話かもしれないが、主筋だけでなく、ちょっとしたエピソードの配合がじつに巧妙で、その中から各人物の素顔が鮮やかに浮かびあがってくる点もおみごと。少佐の嘆きや自嘲にはユーモアがあり、好感がもてる。重箱の隅をつつかず、流れのままに楽しみたい小説だ。