ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Helen Simonson の “Major Pettigrew's Last Stand” (1)

 超多忙につき、予定より大幅に遅れてしまったが、何とか Helen Simonson の "Major Pettigrew's Last Stand" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

Major Pettigrew's Last Stand: A Novel (Random House Reader's Circle)

Major Pettigrew's Last Stand: A Novel (Random House Reader's Circle)

[☆☆☆☆] 絶品だ。冒頭からぐんぐん引きこまれ、退屈なくだりは1ヵ所もない。そして心地よい余韻にひたりながらページを閉じる。読者をつかのま、幸せにしてくれる本である。主な舞台はイギリス、サセックス州の小さな村。とうに妻に先立たれ、今また弟を亡くした退役少佐がパキスタン系の未亡人と次第に親しくなる。月並みな設定だが、それを陳腐と感じさせないユーモアあふれる語り口と、ハートウォーミングな人間関係、小さなエピソードを積み重ねる構成の妙がすばらしい。登場人物同士の交流や衝突を通じて、それぞれの性格がはっきり浮かびあがり、と同時に、世代間の価値観の相違や、人種差別と多文化社会、自然保護と土地開発、伝統の維持と近代化など、現代のイギリスが直面するさまざまな問題も描かれ、それが単純な物語に厚みをもたらしている。やがて定石どおり終盤にひと波乱あり、大いに盛り上がる。人物像も、人間関係も、話の展開も、いや、愛のすばらしさというテーマさえも類型的だが、それがまったく気にならない。「類型的」と指摘することが野暮なほど、これは終始一貫、とにかく楽しくて心温まる小説である。こんなにチャーミングで、人間的にも誠実な老人なら、最後はぜひ、こういう人生を送ってもらいたいと誰もが思うことだろう。英語はごく標準的でとても読みやすい。