ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Stranger's Child” 雑感 (1)

 今年のブッカー賞の本命では、とあちらで呼び声の高い Alan Hollinghurst の "The Stranger's Child" に取りかかった。その噂を知り、早くに入手していたのだが、何しろもっか、猫の手も借りたいほど忙しく、届いた分厚い本を見て今まで尻込みしていた。おまけに、ほかに読みかけていた本もあったのだが、どうせボチボチ読むなら本書にしよう、と急遽、乗り換えることにした。
 2004年の受賞作、"The Line of the Beauty" は、恥ずかしながら完読していない。途中までとても面白く読んでいたのだが、何だったか忘れたけれど、何かよんどころない事情が生じて中断してしまった。その後、ある出版社の編集者と同書の話をする機会があり、「あの内容だと、日本で出すのは厳しいでしょう」と言われたものだ。(さらにその後、実際、同書の邦訳が出たかどうかは知らないし、興味がないので検索するつもりもない)。というわけで、Alan Hollinghurst には借りがある。これも今回、彼の新作を読んでみようと思った理由のひとつだ。
 前置きが長くなったついでに付言すると、26日付のガーディアン紙には、自分たちの予想がほとんど外れてしまったせいか、「今年のロングリストは驚きだ」という旨の記事が載っていた。ビッグネームの作家は Hollinghurst のほか、Julian Barnes と Sebastian Barry の3人だけ。あとはあちらでも無名に近い作家ばかりのようだ。事実、アマゾンUKのベストセラー・リストにも3人の作品しか載っていない。そのうち、本書はいちばん上にランクインしている。
 本当に前置きが長くなってしまった。仕方ない。まだほんの少し読んだだけで、ようやく人物関係が見えてきたくらいだからだ。ただそれでも、ああ、Hollinghurst ってこんな感じの作風だったな、ということは思い出してきた。心理にしろ情景にしろ、とにかく描写は精緻そのものだ。とりわけ、テニスンの詩を愛好する多感な少女 Daphne を中心にすえたくだりに当てはまる。
 時代はどうやら第一次大戦前、舞台はケンブリッジ近郊の町らしく、大学に通う兄の George が週末、年長の友人で詩人の Cecil を連れて帰ってくる。長大な小説の序盤も序盤なので、当然、まだ大した事件は起きていない。が、上のように精緻な描写により、各人物を少しずつ紹介しているだけなのに面白い。
 "The Line of the Beauty"のことがあるので、その筋の話も出てくるのでは、と思いながら読んでいる。召使いの少年、これがちと、それっぽいですね。それから、George は Cecil を敬愛しているようで、少なくともその動きや心理に敏感だ。一方、Daphne はどうも Cecil に思いを寄せているらしい。…などなど、わけが分からないまま楽しんでいる。さて、どうなるんでしょうか。