ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

「96時間」と「恋人たち」

 突然ですが、「96時間」を初めて観ました。「突然ですが」というのは、このマイナーなブログの、ごく少数の奇特なリピーターの方々ならおわかりでしょう。ここではぼくは、今までほとんど海外小説についての駄文しか綴ってこなかったからです。

 …という書き出しだと、これ以後も「ですます調」を続けるのが筋だろうが、ここでいつもの駄文調に戻る。今日も出勤日で忙しく、Alan Hollinghurst の "The Stranger's Child" はノミの這うスピードでしか読めなかった。そこでストレス発散のため、晩酌をやりながら「96時間」を観たのだが、これ、ほんとにすごかった! 辛口で定評のあった亡き双葉十三郎氏でもたぶん、☆☆☆★★★ ぐらいの採点をつけただろう。ぼくはネットの評判だけを頼りにブルーレイの安売りソフトを購入したのだが、これは買って損はない。とりわけ、ぼくのように、娘のいる父親にはなおさらだ。観ている最中は息をのむばかり、それが観おわったあと、ぐっと泣けてきた、なんてアクション映画は初めてだ。かみさんに、しっかりしてよ、と叱られた。
 その感動の余韻がさめやらぬまま、今度は「恋人たち」を鑑賞。ゲージュツ映画の苦手なかみさんは、さっさと自室に戻り、東野圭吾のミステリを読んでいたようだ。この映画、DVDで何度観たかわからないマイベスト10のひとつだが、ブルーレイの画質はどうだろうと気になり、ただ同然で手に入れた。「ただ同然」というのは、ある通販会社の今まで貯まっていたポイントで購入したからだ。
恋人たち[HDマスター] ブルーレイ [Blu-ray]

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 結論。この映画を愛する人なら、絶対、買って損はない! 多少のざらつき感は、製作年(1958年)を考えると仕方ないだろう。むしろ、ここまでよく頑張ってくれたな、と思う。え、ここにこんなタテ線があったの、という古い映画特有の「あの線」も何ヵ所か見受けられたが、これはDVD版にはたしかなかった(おそらく見過ごしていた)ものだ。それほど画質がいい。
 それから、なんといっても音響効果が抜群にいい。わが家の装置は10年くらい前のBOSEのサラウンドシステムだが、それでも十分に鑑賞に耐える水準だ。…と、ここまで書いて、ベルリン・フィル8重奏団盤で、ブラームスのあの名曲を久しぶりに聴きはじめた。ううむ、映画で聴くほうが、はるかに盛り上がりますね。それほど「恋人たち」のブルーレイ版は音もいい。
 それにしても、ジャンヌ・モローの演技はほんとにすごい! 顔の表情、いや、目の光具合だけで、内面の心理をあれほど表現できるなんて…。夜がまだ明けやらぬ前、娘のカトリーヌを抱いたあとのあの顔。名優とは、彼女のためにあるような言葉だと言っても過言ではないくらい。ご面相的には、ドミニク・サンダ様が大のゴヒイキなのだが、演技という点では、ジャンヌ・モローキャサリン・ヘップバーンか、てなもんでしょう。
 駆け落ち前夜のディナーの場面にも圧倒された。夫、愛人、そして知りあったばかりの青年がいるなかで、ジャンヌ・モローをはじめ、それぞれの人物が見せる顔の表情。ルイ・マル監督の注文も当然あったものと思われるが、それにしても文学的な場面です。こんな当たり前のことも、DVDのときには気がつきませんでした。
 夢幻的な月夜のシーンがいかにすばらしいか、これは今さら言うまでもないだろう。あれを観てノックダウンされない人とは酒を飲みたくない(かみさんは別)、と酒を飲みながら、改めて思ったものだ。以上、酔ったいきおいで失礼。