このところ、休日はあってないようなもので、連日、仕事に追われている。おかげで案の定、本書はカタツムリ君のペースでしか進んでいない。英語はけっこう易しいほうだと思うし、内容的にもまずまず面白い読み物なので、本来なら一気に片づけたいところだが、毎度ながら、宮仕えの男はつらいよ。
第1部をふりかえると、いろいろ視点の変化はあるものの、やはり冒頭場面に出てきた16歳の少女 Daphne がいちおう主人公のようだ。第一次大戦前、夏のある週末、兄の George がケンブリッジ大学の友人 Cecil を連れて帰ってくる。Cecil は有名な詩人で、テニスンを愛好する Daphne はすっかり舞いあがり、サイン帳にサインを依頼する。ところが Cecil はなんと、そこに詩を書きこんでいた。それが彼の代表作となったことがのちにわかる。
ざっとそういう単純な主筋なのだが、そのわりに面白かった。まず、しきりに性的な暗示とコミカルな事件が続くことだろう。現象としては隠微な世界が繰りひろげられるものの、むしろ健康的と言ってもいいくらい。と書けば、"The Line of the Beautiy" のあの世界だな、とピンとくるはずだ。ぼくもその筋の話になったときは、お、待ってました、という感じだった。ここで「サロンドット・コム」を参照して初めて知ったのだが、Hollinghurst って、「その筋の話」がお好きなようですな。
ただ本書の場合、上述のように、Cecil の趣味はまあ刺身のツマで(それにしては相当紙幅が割かれているものの)、中心はあくまで Daphne にあるようだ。べつに大した話ではない。純情で多感な少女が年上の魅力的な青年に胸をときめかせ、ある事件が起きる。あげくにプレゼントしてもらったのが、有名な詩人の代表作の詩。
第2部に入り、Daphne と Cecil の話が続くのかと思いきや、人物関係ががらっと変わっていて驚かされる。主人公はやはり Daphne らしいのだが、それが今や2児の母。しかもなんと、Cecil の屋敷に lady として住んでいる。…ううむ、この調子でネタをバラしていっていいものかどうか、何だか不安になってきた。第1部と同じ展開で、ある場面の途中から物語が始まり、最初は何の説明もなく、次から次に人物の固有名詞が告げられ、やがてその関係が少しずつ明らかになる。それを「え、どういうこと?」と追いかけるのが面白いのであって、ぼくの下手くそな要約なんて興ざめもいいところだろう。
何はともあれ、まだまだ長大な小説のイントロにすぎない。けれども、第2部で時代も舞台も一変したことにより、この先どうなるんだろう、という興味がわいてきた。ああ、仕事さえなかったらなあ…。