ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“On Canaan's Side” 雑感(1)

 今年のブッカー賞候補作、Sebastian Barry の "On Canaan's Side" に取りかかった。Barry といえば、08年のコスタ賞を取った "The Secret Scripture" が有名で、ぼくもレビューらしきものを書いたことがある。Barry の作品がブッカー賞にノミネートされたのは、同書もふくめてこれで3度目らしい。
 あちらの評判だが、アマゾンUKではベストセラー・リスト入りこそ果たしていないものの、けっこう売れているようだ。William Hill のオッズでは第5位、Ladbrokes でも第5位。ショートリストへの入選は堅いのではないか、という記事も見かけた。
 今まで読んだ第一印象としては、まずまず面白いといったところ。たしか "The Secret Scripture" もそうだったと思うが、序盤はかなり地味な展開だ。さらに言えば、こちらのほうがミステリ的な興味が乏しく、前作よりやや落ちるような気もする。
 ジャンルはいちおう歴史小説なのかな。89歳の老婦人が孫息子の自殺に茫然としながら、第一次大戦の末期、住みなれたダブリンをやむなく離れ、フィアンセの青年ともどもアメリカに移住した当時のことを回想している。そこに現在の話も混じり、一人暮らしの境遇が次第に明らかになっているが、中心はどうやら回想のほうにあるようだ。
 若い2人はシカゴに住みつき、当初は不安だらけだったが、ようやくそこが Canaan―約束の地に思えるようになった、というくだりまで今日は読んだ。たぶんこれから、さらに苦難の物語が続くんだろうな。古びたテーマだが、どこまで新しい切り口で迫っているか、それが読みどころでしょう。