ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sebastian Barry の “On Canaan's Side” (2)

 雑感の続きを書こう。これ、ロングリストが発表されたとき、「かなり面白い物語ではないかと思われる」と直感したとおりだったが、じつはもうひとつ直感したことがある。何となく頭にのこっていた旧作 "The Secret Scripture" の印象からして、面白いことは面白いだろうけど、この作家はたぶん突っこみが甘いんじゃないかな。
 その危惧はとりわけ後半、現実のものとなった。予想外の大事件が発生したあと、せっかくクイクイ読んでいたのに、ヴェトナム戦争の話が出てきたところでガックリ。「図式的、類型的な処理」に終わっているからだ。さらに、人種差別の問題も採りあげられたのはいいが、やはり平面をなぞっているにすぎない。湾岸戦争にいたっては、明らかに書き飛ばしたとしか思えない粗雑な説明だ。
 時代背景は第一次大戦から現代までということで、たまたま同じく今年のブッカー賞候補作、Alan Hollinghurst の "The Stranger's Child" とほぼ重なっている。あちらは長大な作品だが、あの長さには必然性がある。「大きな歴史の流れを背景にし」ながら、各時代の物語を念入りに仕上げているからだ。ところが、本書はあちらの半分にも満たないボリュームで「大きな歴史の流れを」追っている。「図式的、類型的な処理」や「粗雑な説明」が顔を出すゆえんである。
 …などと、辛口批評ばかりになってしまったが、理屈をあまりこねず、単純にドラマティックな展開を楽しむだけなら、「かなり面白い物語ではない」でしょうか。ロングリスト発表時のコメントをくりかえすと、「毎年、ショートリストには何冊か、ストーリー重視型の小説も選ばれるので注目したい。ただし結局、栄冠には輝かないことが多い」。
 実際に読んだ結論としては、本書はせいぜいショートリストどまり。ほかの作品の出来次第では、それも怪しいのではないだろうか。