ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Carol Birch の “Jamrach's Menagerie”(2)

 これ、終わってみれば、最初から当然、通過儀礼のテーマに気づくべきだったのに、勘の鈍いぼくは、「いちおうヒントらしきものはあるのだが、はて、ほんとうにそうなのかしらん」と思いつつ、べつのテーマがあることを相当に期待しながら読んでいた。おかげで、雑感に書いたように中盤過ぎまで、ああでもない、こうでもない、と試行錯誤を繰り返していたわけだ。もっと素直に読むべきでした。
 で、「素直に」本書をふりかえってみると、読んでいる途中に受けた印象がますます強くなる。冒頭、主人公の少年が虎に咬まれて助かった事件はたしかに「ショッキング」なのだが、以後、竜探しの一件もふくめて、それなりに面白いことは面白い。が、どのエピソードも「定石どおり」で、いつかどこかで読んだり見たりしたようなものばかり。目鼻のついてきた後半、「基本的に、海洋冒険小説と聞いて想像する嵐や遭難といった定番のエピソードが中心を占めている。それ以上でもそれ以下でもない」と書いたとおりだ。たしかに漂流中の出来事は「とんでもない展開」で、「凄惨きわまりない」ものだけれど、これもじつは先例があり、べつに驚くほどではない。
 結局、「どんでん返し」はなく、これは「終わってみれば」、「ごくフツーの」通過儀礼小説だったことになる。ぼくは海洋冒険小説編で、「当然、『白鯨』を思い出したが、これは比較しないほうがいいでしょう」と言いながら、つい、「人生の根本問題に迫ろうとする突っこみがあることを期待し」てしまった。一種の深読みと言っていいだろう。
 改めてオッズを確認すると、Ladbrokes では第6位だが、William Hill では第3位。ぼくの評価も、今まで読んだ4冊の候補作中、第3位。ほかの作品の出来次第だが、ショートリストに選ばれるかどうかはビミョーだと思う。でも、せっかく読んだ本なのだから、ぜひ何とかもぐりこんでほしいですね。