ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Pigeon English” 雑感

 今日は「コクリコ坂から」を見に行った。「わりとよかった」と娘が話していたからだが、ぼくの感想も似たようなものだ。気に入ったシーンのひとつは1963年、東京オリンピック前の横浜・桜木町駅周辺の風景で、映画館ブルク13を出て目に飛びこんできた現代の風景との落差が激しく、やはり感懐を覚えずにはいられなかった。生粋のハマっ子だったら、なおさらでしょう。
 閑話休題。このところ、読んだ本をレビューで持ち上げ、おしゃべりでクサす、というパターンが続いているが、ぼくの中では矛盾はない。むしろ、長所と欠点についてそれぞれ目配りをしているつもりだ。"Jamrach's Menagerie" にしても、「当初は意味不明に思えたエピソードをすべて…凄絶な通過儀礼へと収斂させる手腕はみごと」。それゆえ「佳作」には違いないのだが、通過儀礼という「古びたテーマ」に付け加えるものは何もない。だから「ごくフツー」と言わざるをえないわけだ。
 さらに閑話休題。今年の「ブッカー賞読書」第5弾。Stephen Kelman の "Pigeon English" に取りかかった。最新の William Hill のオッズを見ると第8位。ずいぶん順位が下がってしまったが、当初は上位グループだった。Ladbrokes では依然、第2位。アマゾンUKでも星4つで、レビュー数は "Jamrach's Menagerie" に次いで3番目に多い。
 というわけで、かなり期待して読みはじめたのだが、ううむ、これ、悪くはないのだけれど、どうなんでしょうね。たぶん、最後に大いに盛り上がりそうな気はするのだが、今のところ、こんなものでブッカー賞候補作なのか、と期待はずれ気味。
 ともあれ、これはほとんど少年の1人称1視点で書かれた小説で、まるでジグソーパズルのピースを少しずつ、それもまったく異なる絵柄の部分を同時に組み合わせていくような構成だ。ネタばらしにならない程度に絵柄のひとつを紹介すると、少年はある殺人事件に遭遇し、大まじめにその解決に取り組んでいる。が、何しろ子供の考えることゆえ、無邪気で荒唐無稽な発想が先走り、それが真剣な努力といかにもアンバランスで面白い。
 この構成の妙と、少年の面白おかしい言動、それを表わすきびきびとした語り口――本書の美点は、今までざっとそんなものだろう。だから決して「悪くはないのだけれど」、はて、「こんなものでブッカー賞候補作なのか」とも思ってしまうのだ。でもまだ途中。最後の盛り上がりを期待しましょう。