今年のブッカー賞候補作、Stephen Kelman の "Pigeon English" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 衝撃の結末を期待していたらそのとおりだった。ゆえに意外な展開とはいえないが、それでも途中の構成は巧妙に仕組まれている。主人公はロンドンの高層団地に住む、ガーナ出身の少年ハリ・オポク。その1人称1視点で、まるでジグソーパズルのピースを少しずつ、それもまったく異なる絵柄の部分を同時に組みあわせていくように、ハリの家庭環境や学校生活、校外での友人たちとの交流などがコミカルに、かつ、きびきびと綴られる。中心の絵模様は、思春期特有の無邪気で未熟だが真剣な心が、さまざまな現実と出会い、経験を重ねていく通過儀礼だ。ブレイクの詩集ほど哲学的な深みはないものの、まさに現代版『無垢と経験のうた』といってもいいだろう。冒頭、ハリはある殺人事件の現場を目撃。やがてその捜査に乗りだす一方、団地でハリに助けられた一羽の鳩が彼の行動を見守るようになる。この鳩の扱いは必ずしも完璧ではないが、それでも少年の「無垢と経験のうた」を最後まで見届ける「証人」として、「衝撃の結末」に彩りを添えている。