これで今年のブッカー賞候補作を読むのは、ロングリストもふくめて7冊目。そこで思ったのだが、今年はどうも低調のような気がする。ほんとうにいいなあ、と感動したのは Julian Barnes の "The Sense of an Ending" だけだ。さらにと言えば、ショートリストからは洩れてしまったが、Alison Pick の "Far to Go" もよかった。これはめっちゃくちゃオモロー!(もう古いセリフですな)。
なぜ低調かと言うと、本書もそうだが、テーマはいずれも二番煎じ、三番煎じ。ただ、その扱い方をいかに工夫しているか、という違いだけが作品の優劣を決めているように思える。結局、テーマや表現スタイルが自分のフィーリングに合ったものがいちばんいい、ということになるのかもしれない。ひょっとしてこれ、現代文学の通弊?
それからもうひとつ、登場人物が「右せんか、左せんか」と心の中でどれだけ葛藤しているか。この点についても、どうも食い足りない作品が多い。たしかに彼ら彼女たちは大いに悩んでいる。が、その悩みは、読んでいるこちらの生き方にまで影響を及ぼすものではない。その点、去年、ロングリストどまりだった David Mitchell の "The Thousand Autumns of Jacob de Zoet" と、今年の "The Sense of an Ending" には、なるほどそのとおり、と思わず襟を正したくなる場面がありました。
本書に話を戻すと、これも決して出来がわるいわけではない。「定番の読み物の面白さ」はかなりのものでクイクイ読める。が、「定番」は定番だ。おまけに、「青春の嵐と心の傷というブルース」もおなじみのテーマで、数ある青春小説の歴史にその名を刻すほどの作品ではない。
ともあれ、今まで読んだ最終候補作の順位をつけると、1."The Sense of an Ending" 2."Jamrach's Menagerie" 3."Pigeon English" と "Half Blood Blues" ありゃ、あちらのオッズ順と同じですな。なにしろロングリストの段階で、Alan Hollinghurst の "The Stranger's Child" にけっこうケチをつけておきながら、「たぶんショートリストには間違いなくのこるだろう。ひょっとしたら、栄冠に輝くかもしれない」などと予想して赤恥をかいてしまったぼくのことだ。こんな順位表、いい加減なもんです。