Ann Patchett の "State of Wonder" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。
追記:その後、本書は2012年のオレンジ賞最終候補作に選ばれました。
[☆☆☆☆] 呆れるほどうまい小説だ。まず主人公の薬理学者マリーナ・シンをはじめ、人物造型がじつにみごと。彼女と人びととの出会いには必ずそれぞれの人生が凝縮され、ヒロイン像がくっきり浮かびあがると同時に、端役ですら意味のある存在となる。情景描写も的確そのものだ。
インディオの手荒い歓迎、叩きつけるようなスコール、
アナコンダとの死闘。一方、ユーモアたっぷりの場面もあって心がなごみ、口のきけない少年とマリーナとのふれあいなど胸を打たれる。が、なによりすばらしいのは、ジャングルという過酷な環境のもと、マリーナと周囲の人物とのあいだに終始一貫、緊張関係が維持されている点である。現地で謎の研究をつづける老いた女性薬学者アニック・スウェンソンは、マリーナが
産婦人科医を目ざしていたころの指導教授。マリーナの心に人生の重荷となった事件がよみがえるも、彼女はやむなく
インディオの女の出産に立ち会う。こうした緊張をさらに高めているのが、そもそもマリーナが現地を訪れることになったある使命だが……。心の傷に苦しみながらも使命感に燃える彼女の姿はおおいに感動的だ。後半、アマゾンの奥地で展開される大冒険はまさに「驚異の仕上がり」。やや出来すぎの結末ともいえるが、この人物たちにしてこの物語あり。「呆れるほどうまい」造型ゆえの必然的な流れであることは間違いない。