ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Galore” 雑感 (1)

 去年の英連邦作家賞、カナダ・カリブ海地域部門賞の受賞作、Michael Crummey の "Galore" をボチボチ読んでいる。周知のとおり、これは Tea Obreht の "The Tiger's Wife" や Ann Patchettの "State of Wonder" などと並んで、米アマゾン選定今年の上半期ベスト10小説の1冊だ。両書の出来ばえから察して、これもかなりイケルのでは、と期待して取りかかったのだが…
 ううむ、今のところ、ちょっと期待はずれですな。多忙につきコマギレにしか読めないのと、風邪気味のせいもあるのだろうけど、イマイチ乗れない。
 舞台は19世紀、ニューファンドランドの漁村。海岸に鯨が打ち上げられ、その体内からなんと、生きた人間が発見される、というショッキングな事件を皮切りに、ウィッチ・ドクターのような老婆が中心人物として登場したり、漁師が人魚と交わったり、夫の亡霊が出没する部屋で神父が未亡人と関係したり、とフォークロア風の奇談が連続して、まあ、それなりに面白いことは面白い。
 また、老婆の娘時代、彼女の息子の青年時代、鯨から出てきた男と結婚する孫娘の時代と、3代の話が複雑にからみあいながら進行する多重構造もなかなかいい。それがさらに脇役たちの物語と連結、この漁村の年代記へと発展し、ドタバタ喜劇も混じったりしながら一種異様、不可思議な空間を現出している。
 というわけで、これはまあ、マジック・リアリズムの小説にふくめていいだろう。だから、本来ならもっと夢中になってよさそうなものだが、「イマイチ乗れない」のはなぜか。それはたぶん、その「不可思議度」がもの足りないせいじゃないかな、という気がする。少しだけかじったマジック・リアリズムの本家本元、たとえばマルケスやドノソなどのほうが、何が何だかわけがわからないのに、はるかに強烈だった…
 とはいえ、まだまだ先は長い。今後を期待しましょう。