ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Michael Crummey の “Galore” (1)

 世間は3連休だったが、ぼくは土曜出勤で、昨日も午前中は「自宅残業」。午後から本書に取り組み、今日になってやっと読みおえた。昨年の英連邦作家賞、カナダ・カリブ海地域部門賞の受賞作で、米アマゾン選定今年の上半期ベスト10小説の1冊でもある。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

Galore

Galore

[☆☆☆★★★] 19世紀から第一次大戦まで、おおよそ百年にわたる大英帝国自治領時代のニューファンドランドを舞台にした力作ファミリー・サーガ。さらには、無知と偏見、迷信のはびこる漁村の年代記でもある。海岸に打ち上げられた鯨の体内から、生きた人間が発見されるという驚くべき事件を皮切りに、男を見つけたウィッチ・ドクター的な老婆の一家と、その娘時代に求婚してふられた村の有力者の一家、司祭や漁師、漁業組合のボスなど、両家を取り巻く人々の物語がまさに galore 盛りだくさん。「鯨男」をはじめ、人魚や亡霊といったフォークロアの色彩が強く、時にマジック・リアリズムの世界へと近接するものの、その底流には男女の愛憎、家族愛など、濃密な情念が幾重にも渦巻いている。それが時の流れに沿い、また逆らいつつ、何代にもわたって語り継がれる多重構造がすばらしい。当初は未開の地、暗黒時代の物語だが、数々の珍談奇談を通じて情念が何度も高まりを見せるうち、やがて村に押し寄せる近代化の波、そして世界大戦という歴史の荒波と激突。数奇な運命をたどった一家の年代記に、ニューファンドランドの百年史がみごとに重なっている。難易度のかなり高い語彙が頻出し、英語的にもとにかく多彩、galore な作品である。