いやはや、根負けしました。雑感にも書いたとおり、途中の評価としては☆☆☆★★だったのに、最終的には★を1つ追加。その理由は、結局、本書のパワーに圧倒されてしまったのと、「数奇な運命をたどった一家の年代記に、ニューファンドランドの百年史がみごとに重なっている」点に感心したからだ。
当初は、鯨の体内から生きた人間が出てきたり、「漁師が人魚と交わったり、夫の亡霊が出没する部屋で神父が未亡人と関係したり、とフォークロア風の奇談が連続して、まあ、それなりに面白いことは面白い」が、マジック・リアリズムとしての「不可思議度」がもの足りない、などとケチをつけていた。が、老婆から孫娘に、そしてその息子に、さらにまたその息子に、といった調子でどんどん主人公が代わるうち、「まさに galore 盛りだくさん」な物語の流れにいつのまにか引きこまれてしまった。
と同時に、終盤になって遅まきながら気がついた。この「物量作戦的」と言ってもいいほど豊富なエピソードの数々は、たんなる珍談奇談にとどまらず、未開の地だったニューファンドランドの漁村が近代化の波に洗われ、「そして世界大戦という歴史の荒波」にのまれていく過程そのものではないか、と。
そこが未開の地だからこそ、フォークロアの登場する必然性がある。それゆえ、本書は「時にマジック・リアリズムの世界へと近接」する。が、不可思議な物語を足がかりとしながらも、それを通じてさらに、民族の歴史や運命を描きだそうとする。これは「志の高い小説」だと思う。
ただ、力作だけに疲れましたね。とにかく内容は「galore 盛りだくさん」。かなりゴテゴテした印象を受ける。そこが減点材料かな。とはいえ、最初から昨日のように、家できちんと読んでいれば「疲労度」は少なかったかもしれない。通勤時間を利用してボチボチ読みすすんだのだけど、これは完全に間違いでした。