今年のフランク・オコナー国際短編賞受賞作、Edna O'Brien の "Saints and Sinners" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 技巧的にすこぶる洗練された短編集である。極力感傷を排し、切りつめた客観描写がつづくうち、主人公の心の奥にひそむ情熱や苦痛など、さまざまな思いが次第に浮かびあがってくる。一方、時には不協和音の連続を思わせる饒舌なモ
ノローグを通じて、不安や焦燥感が直裁に訴えられる。こうした叙述スタイルの変化はやはり、大家の芸域の広さを示すものだろう。たまたまパブで知りあった男がやがて人生を語りだす第1話をはじめ、間然するところのない展開も名人芸のひとつ。刑期をおえて出所した
IRAの闘士の悲惨な最期を描いた話では、ぞくぞくするような緊張の高まりがみごと。中年女の司書が文通相手の有名な詩人と面会する前、それまでの恋愛体験をふりかえるときのリリカルな哀感もすばらしい。が、総じて劇的な山場が少なく、いまひとつ強烈な
インパクトに欠ける憾みがある。