ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Julie Otsuka の “The Buddha in the Attic” (2)

 今年のブッカー賞について、ひとつだけ補足。ぼくは "The Sense of an Ending" を読みおわった次の日 (8月19日) の日記に、「こういうストレートな秀作がブッカー賞を取ることはそう多くないのではなかろうか」と書いている。これは去年の受賞作、"The Finkler Question" が頭にあったからで、あんな駄作を選ぶとは、ブッカー賞の選考委員諸氏はよほどゲージュツ作品がお好きなんだろうな、と思ったわけです。
 ところが、今年はみごとに「ストレートな秀作」が受賞。最終候補作をすべて素直に読めば、誰しも当然の結果だと思うのではないだろうか。それほど「群を抜いてすばらしかった」わけだが、ひるがえって、去年の各候補作には今年ほどの歴然とした差はなかったかもしれない。とはいえ、Tom McCarthy の "C" か、Damon Galgut の "In a Strange Room" あたりを「素直に」選んでほしかった、といまだに納得がいきません。
 閑話休題。Julie Otsuka のことは今までまったく知らなかった。が、全米図書賞のショートリストを見て日系人ではないかと思い、興味がわいた。事実、裏表紙の写真を見ると、それらしいお顔をしている。デビュー作は "When the Emperor Was Divine" という作品で、Mitciko Kakutani などからかなり高い評価を受けた模様。この "The Buddha in the Attic" は2作目だそうだ。
 さて賞の行方だが、本書と Tea Obreht の "The Tiger's Wife" をくらべると、これはやっぱり、オレンジ賞に続いて Obreht の2冠達成かな、と思います。あちらは「国家の歴史と運命を背景にしたマジックリアリズム小説」ということで、ぼくはなんと、☆☆☆☆★を進呈。それにひきかえ、こちらは☆☆☆★★★。上出来の部類には違いないのだが、ちと相手がわるすぎる。
 ただ、初めて知る内容が多くて大いに勉強になったし、第二次大戦中における日系人の強制収容の問題にしても、去年読んだ Jamie Ford の "Hotel on the Corner of Bitter and Sweet" とはまた違ったアプローチで、とても興味深かった。そればかりか、「悲惨な歴史をこれほどテンポよく語りつづける小説も珍しい」し、「小品ながら大河小説に匹敵する効果を上げているところがすばらしい」。そのことに気がつき、★を一つおまけしました。