ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Simon Van Booy の “Love Begins in Winter” (2)

 雑感にも書いたように、これでフランク・オコナー国際短編賞の受賞作を読むのは、08年の "Unaccustomed Earth"以降、4冊目ということになる。同書があまりにもよかったので、最近の受賞作にも大いに期待していたが、率直に言って、この "Love Begins in Winter" がまずまず期待どおり、といったところだ。
 本書にしても、5篇ともすべて☆☆☆★★★というわけではなく、今ひとつピンとこない話もあったが、雑感で音楽への省察を引用した表題作はかなりいい。第4話 "The Coming and Going of Strangers" も、よくある少年時代の初恋物語かと思いきや、突然、主人公が中年女に入れ替わり、しかも背景説明はほとんどない。それなのに、「胸をかきむしられるような瞬間がある」。行間を読ませる佳作だ。
 今年の受賞作、"Saints and Sinners" のほうが「技巧的にはすこぶる洗練された短編集」だと思うけれど、記憶力のわるいぼくは「えぐり」の効いた作品がないと、読みおわって目次を見返したとき、え、これ、どんな話だっけ、ということになりがちだ。その点、本書は表題作を巻頭にすえたのが奏功している。
 「読者自身、わが子や遠い昔の自分、旧友などに、切なくも思いをはせることだろう」と昨日のレビューに書いたが、ぼくにもドラ息子とドラ娘がいるし、それからもちろん、昔なつかしい子供時代の思い出もたくさんある。本書を読みながら童心に返ることができたので、★を一つおまけした。