ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kyung-Sook Shin の “Please Look After Mom” (1)

 Kyung-Sook Shin の "Please Look After Mom" を読了。米アマゾンの今年の上半期ベスト10小説に選ばれた、韓国のミリオン・セラーの英訳版である。さっそくレビューを書いておこう。

Please Look After Mom

Please Look After Mom

Please Look After Mother

Please Look After Mother

Please Look After Mom (Vintage)

Please Look After Mom (Vintage)

[☆☆☆☆] 何度か目頭が熱くなった。自己犠牲の尊さ、献身的な愛の美しさ、わが子を思う母親の偉大さを改めて教えてくれる感動的な物語である。年老いた母親がソウルの地下鉄の駅で突然失踪。以後、その行方を捜す家族がそれぞれの立場から、母親および妻の人生、そして自分の人生を回想する。昔かたぎで頑固な一面もあり、時には厳しく叱りながらも、とにかく愛情豊かに子供を育て、人知れず悩みながら弱音を吐かず愚痴もこぼさず、農作業から何から、家族のために文字どおり全身全霊を捧げてきた母親・妻。ひるがえって、自分は今まで何をしてきたのか。現代ではもう、めったに見られなくなったかもしれないが、昔はたしかに存在したにちがいない女性の姿、心の原風景に強く胸を打たれる。自分がやりたいことをやるのではなく、人のために尽くすことが感動を呼ぶ。この不滅の真理を余すことなく描いている点がすばらしい。叙述スタイルにも工夫がほどこされている。家族はほとんどの場合、you と呼ばれ、その意味が終盤、マジック・リアリズムの世界に近づいたとき明らかになる。この技法、このマジック・リアリズムもまた、本書を決して感傷的ではなく、あくまで感動的な物語たらしめているのである。英語は平明そのもので、内容と相まって一気に読みすすむことができる。