ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kyung-Sook Shin の “Please Look After Mom” (2)

 これは読んでみて、ほんとによかった! Kyung-Sook Shin のことは不勉強でまったく知らなかったが、紹介記事によると韓国では有名な女流作家らしく、とりわけ本書は韓国国内だけで150万部近く売れたベストセラーとのこと。23ヵ国で翻訳が予定されているという。たぶん日本でも、すでに版権を取得している会社があるのではないか。いや、もう邦訳が出ているのかな。とにかく、これは間違いなく売れ筋です!
 理由は簡単だ。本書が万人に当てはまる、「不滅の真理を余すことなく描い」た作品だからである。「自己犠牲の尊さ、献身的な愛の美しさ、わが子を思う母親の偉大さ」、こういったものを大なり小なり感じない人間がどこにいるだろう。しかも本書の場合、叙述スタイルに工夫をほどこし、マジック・リアリズムの世界へと接近することによって、「決して感傷的ではなく、あくまで感動的な物語」に仕上がっている。世界的なベストセラーとなりそうな予感がする。
 なるほどなあ、と思ったのは、この母親が政治とはいっさいかかわりなく生きていることだ。たしかに朝鮮戦争学生運動など、政治がらみの話も出てくるのだが、そういう場面でも彼女はひたすら家族のことだけを考えている。バカな女と嗤ってはいけない。頭でっかちの女こそバカなのだ。いや、男もそうです。(などとエラソーなことを言いましたが、とりあえず、自分のことは棚上げしましょう)。
 ともあれ、これを読めば、政治は人間的にみごとな生き方とは関係ない、ということが改めてよくわかる。政治の問題をまったく採りあげていないことも、本書が万人に受けいれられそうな理由のひとつなのだ。