ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Binocular Vision” 雑感 (1)

 このところ長編と短編集を交互に読んでいて、今回は長編のまわり。実際、Alison Espach の "The Adults" に取りかかっていたのだが、今年の全米図書賞の候補作、Edith Pearlman の短編集、"Binocular Vision" が意外に早く手元に届いた。見ると、Ann Patchett が序文を書き、裏表紙には Yiyun Li の寸評も載っている。俄然、興味がわき、こちらに急遽、乗りかえることにした。
 恥ずかしながら例によって不勉強で、Edith Pearlman のことはまったく知らなかったが、紹介されている記事を斜め読みするかぎり、この作家はどうやら短編の名手として定評があるらしい。Yiyun Li によると、チェーホフフランク・オコナーと肩をならべるくらいなのだそうだ。
 その指摘が正鵠を射ているかどうかは、まだ5篇しか読んでいないので何とも言えないが、少女がハーバード大学を見学した帰り、ボストンの街角で両親とはぐれてしまう第1話と、ガンにかかった医師がケープ・コッドで療養中、第二次大戦で対日戦に勝利した日の大騒ぎに巻きこまれる第4話はかなりいい。
 とくに凝った文体とも思えず、ストーリーもむしろ淡々と進むと言っていいのだが、どの物語も幕切れで、それまで深く潜行していた感情が水面にぱっと浮かんできて、波紋が一気に広がるような印象を受ける。第4話のほか、年配の元教師が教え子の家でもよおされたパーティーに出席し、その模様が何ということもなく描かれていたかと思うと最後、意外な事実が暴露される第3話なども典型的である。
 けっこう分厚い短編集なので先はまだ長い。当分これで楽しめそうだ。