ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Michael Ondaatje の “The Cat's Table” (1)

 今年のギラー賞最終候補作、Michael Ondaatje の "The Cat's Table" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

The Cat's Table

The Cat's Table

[☆☆☆★] 本文を引用すれば「通過儀礼」がテーマのはずで、事実、ここには無垢から経験という定番の流れが読みとれる。が、いささか散漫な構成でその流れが悪いうえに、主人公を成熟させるべき事件も盛り上がりに欠け、焦点のぼやけた経験しか伝わってこない憾みがある。通過儀礼となったのは1950年代、一人の少年が単身、旧セイロンからイギリスまで渡ったときの航海。当初は、仲よしになった2人の少年との船内探検をはじめ、嵐の襲来や大人たちのドタバタ劇など型どおりの展開だが、中盤以降、本格的に後日談が混じるようになって深みを増す。洋上生活のみならず、乗客たちの過去の体験も回想や書簡などを通じて綴られ、主人公の冒険や大人になってからの出来事と相まって多重構造を形成。男が昔の友人たちや、そのうち一人の妹で、のちに結婚して別れた元妻、やはり船に同乗し、人生で忘れえぬ存在となった従姉への思いを語るくだりは心にしみる。が、派手なアクションシーンもあるものの、結局、肝心の航海記が尻すぼみとなり、パンチ不足。主人公が何を知り、どんな大人に成長したのか曖昧な点がいちばん弱い。英語は総じて標準的で読みやすい。