ぼくにはこれ、かなり退屈な作品だったが、あちらの評判はとてもよく、ギラー賞こそ逃したものの、カナダでは発売当初からベストセラーだし、つい最近発表された米アマゾンの年間ベスト10小説にも選ばれている。
ぼくが本書にケチをつけたのは、本文にもその航海が「通過儀礼」と謳ってあるにもかかわらず、「主人公が何を知り、どんな大人に成長したのか曖昧」だからである。もちろん途中には、少年がこんなこと、あんなことを学んだという記述も出てくる。が、それはまあ生活の知恵程度で、べつにたいしたものではない。
さらに言うと、たしかに少年が航海を通じて学び、後日、痛切に思い知るようになった事実がまったくないわけではない。それが何かはネタばらしになるので詳しくは書けないが(ぼくのレビューでは、それとなく匂わせている)、もしかしたら、その点に胸を打たれる読者が多いのかもしれない。いや、ぼくだって、なかなかのものだとは思う。だが、そのことを承知のうえで再度言う。本書は「主人公が何を知り、どんな大人に成長したのか曖昧な点がいちばん弱い」。
そもそも、大人になるというのはどういうことか。それは今さらぼくなどが言うまでもなく、ひとつには現実を知ることだ。その現実には、たとえば世の中の仕組みや決まりごとなど、自分以外のもの、自分を超えつつむものもあるけれど、自分の中にも現実がある。簡単に言えば自分の欠点、抽象的に言えば「心の中の悪」だ。
どれもこれも、自分にはどうしようもない現実ばかり。それを知ることが大人になる意味のひとつだが、問題はその先にある。その現実を知ってどう生きるか、「どんな大人に成長」するのか、ということだ。(このあたり、いまだに生き方がよくわからず、子供のころからたいして成長していないぼく自身のことは、まったく棚に上げて書いています)。
…ざっとそんな目で本書をふりかえると、これはいかにも甘い小説だと言わざるをえない。たしかに「心にしみる」くだりもあり、だからこそ、あちらの評判もいいんだろうけど、少しだけネタをばらすと、自分にとって大切な人間や出来事の意味をかみしめるだけでは、突っこみが「甘い小説だと言わざるをえない」。これではギラー賞を取れなかったのも無理はないと思います。