ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Art of Fielding” 雑感 (3)

 すっかりブログをサボってしまった。今週は、祭日はあったけれど職場が今年最後の繁忙期に入り、家に帰ると疲れがどっと出てきてバタンキュー。とても本を読む気にはなれず、米アマゾンで買ったブルーレイ版「フェリーニのアマルコルド」の英語字幕を追いかけるのがやっとだった。(日本では未発売のはず。送料込みで2千円ちょっと。かなりお買い得だと思う。「勝手にしやがれ」もほぼ同じくらいの値段だったので注文した。クルーゾー監督の「悪魔のような女」もブルーレイで観たいのだが、こちらはなぜか、ぼくの住所が default になってしまう。版権の問題でもあるのかな?)
 閑話休題。今日の午後から Chad Harbach の "The Art of Fielding" の続きに取りかかった。かなり中断したにもかかわらず、中身は快調そのものだ。主人公は、ミシガン湖畔の小さな大学の野球チームに所属する Henry 遊撃手。守備の天才で、連続無失策試合の最高記録に並んだところ。小柄なため、当初は非力でベンチウォーマーだったが、体力増強にこれつとめた結果、次第に打撃でも頭角を現わし、今やセントルイス・カージナルスのスカウトからドラフトの勧誘電話がかかってくるほどだ。この流れがタテ糸で、スポーツという明快な「題材のよさがストレートに伝わってくる」。
 ヨコ糸の混ざり具合も相当に面白い。まず、Henry のチームメイトで、寮のルームメイトでもある Owen という学生がいるのだが、彼はゲイ。その Owen になんと、60歳になる大学の学長が恋をする! こりゃ驚きましたね。ぼくにはとうてい理解しがたい設定だが、あちらではすんなり受けいれられるんでしょうか。ともあれ、その学長の今までの人生が紹介され、人物像がじっくり練り上げられる。
 その過程で登場するのが学長の娘 Pella である。母親をとうに亡くし、父親とも長らく疎遠だったが、駆け落ち結婚に破綻した今、父親の大学で再び学業に取り組もうとしている。そんな彼女の人物像もしっかり造形される。
 Pella が大学に足を運んで出くわしたのが、Henry のチームメイトの Mark だが、Mark は Henry の天才をいち早く見ぬき、Henry を一流の野球選手に育てるべく大いに尽力している。一方、彼自身はロースクールへ進学するのが夢だが、どこの大学からもいい返事がもらえず、落ちこんでいるところへ Pella が…。
 今後も Henry が順調に育っていくとは思えない。試合中に大事件が発生するなど、すでに波乱ぶくみの展開だ。そのタテ糸に以上のようなヨコ糸が混じり、序盤にしてすでに重層的な構造となっている。つまり、ストレートと変化球を巧みに混ぜながらピッチングを組み立てているわけだ。繁忙期でなかったら、クイクイ読めるはずなんだけどな。