ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Denis Johnson の “Train Dreams” (1)

 今日はもともと、昨日の続きで Siri Hustvedt の "The Summer without Men" について駄文を綴るはずだったが、意外に早く Denis Johnson の "Train Dreams" を読みおえたので、印象が薄れぬうちにそのレビューを書くことにした。パブリシャーズ・ウィークリー誌やエコノミスト誌などで、今年のベスト小説のひとつに選ばれた作品である。
 追記:その後、本書は2012年のピューリッツァー賞候補作に選ばれました。ちなみに、同年の受賞作はありませんでした。

Train Dreams

Train Dreams

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[☆☆☆★] 二十世紀前半、アイダホ州の田舎。とくれば、おそらくアメリカ人なら反射的に郷愁をかきたてられる心の原風景のひとつだろう。ここには決闘やキャトル・ドライブこそ見られないものの、いかにも西部、フロンティアらしい土と汗の臭いが強烈にただよっている。主人公は、早くに妻子を亡くした男ロバート・グレイニア。ロバートは森のなかに建てた小屋でひとり暮らしながら、鉄道の工事や木の伐採、馬車による運送など、さまざまな肉体労働に従事。神話とフォークロアの世界に鉄道をはじめ、文明の発達が忍びよる時代の変遷を見守る。そんな彼の日常はまた、亡き妻と娘の姿や、夕日に映える遠い山々など、人生という一睡の夢に出てくる情景の連続でもあり、アメリカ人一般にとっては切ないほどに懐かしい、いまや失われた夢の風景集といえよう。しかしその意味は郷愁のみ。それ以上でもそれ以下でもない。よほど似たような人生経験の持ち主でもないかぎり、他国の人びとが心から共感をおぼえるのはむずかしそうだ。