ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Denis Johnson の “Train Dreams” (1)

 今日はもともと、昨日の続きで Siri Hustvedt の "The Summer without Men" について駄文を綴るはずだったが、意外に早く Denis Johnson の "Train Dreams" を読みおえたので、印象が薄れぬうちにそのレビューを書くことにした。パブリシャーズ・ウィークリー誌やエコノミスト誌などで、今年のベスト小説のひとつに選ばれた作品である。
 追記:その後、本書は2012年のピューリッツァー賞候補作に選ばれました。ちなみに、同年の受賞作はありませんでした。

Train Dreams

Train Dreams

[☆☆☆★] 20世紀前半、アイダホ州の田舎。とくれば、おそらくアメリカ人なら反射的に郷愁をかきたてられる、心の原風景のひとつだろう。ここには決闘やキャトル・ドライブこそ見られないものの、いかにも西部、フロンティアらしい土と汗の臭いのする物語が展開している。いや、物語とも言えないかもしれない。早くに妻子を亡くした男が各地で鉄道の工事や木の伐採、馬車による運送など、さまざまな肉体労働に従事する。森の中に建てた小屋で一人暮らし。男は長生きし、生態系の変化や世の中の変遷を実感。フォークロアやほら話のたぐいもあり、思わず笑ってしまったり、ストイックな男の深い悲しみにしんみりしたり。亡き妻の姿や夕日に映える遠い山々など、人生という一睡の夢に出てくる情景の連続を綴ったもので、アメリカ人には切ないほどに懐かしい、今や失われた夢の風景集かもしれない。が、これに心から共感を覚えたとは言えないのは彼我の差ゆえだろうか。英語は語彙的にはややむずかしいが、流れに乗れば読みやすい。