ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Siri Hustvedt の “The Summer without Men” (2)

 今週から仕事は自分のペースでやれるようになり、ホッとひと息ついている。この2ヵ月多忙をきわめただけに、しばらくノンビリしたいところだ。
 というわけで、ブログをサボっているあいだも高くなりつづけた積ん読の山を切り崩そうと、まず手に取ったのが本書である。今年も例によって11月からベストテンの季節が始まり、ニューヨーク・タイムズ紙やガーディアン紙、タイム誌、パブリーシャーズ・ウィークリー誌に英米アマゾンと、今ではもう各メディア選定の優秀作品がほぼ出そろっている。そのリストをながめているうちに、おや、Siri Hustvedt とは懐かしいなあ、と気になったので入手した。
 周知のとおり彼女は Paul Auster の奥さんで (離婚はしてないでしょうね?)、その昔、デビュー作の "The Blindfold" を読んだら夫唱婦随、おしどり夫婦というやつで、Auster の "New York Trilogy" と同じ味わいだったのを憶えている。が内容は失念。同じく話はすっかり忘れたが、"What I Loved" も読んだことがある。これはよかった、面白かった! 昔のレビューを再録して思い出してみよう。(点数評価は今日つけました)。

What I Loved

What I Loved

[☆☆☆☆] ハストヴェットといえば、処女作『目かくし』も非常に面白かったが、何しろ文体も主題もオースターそっくりで、おしどり夫婦というか「夫唱婦随」ではないかと思ったものだ。が、どうやら本書で彼女は自分の顔を見つけたらしい。その特徴はずばり、上質のメロドラマと高度なリアリズムにある。むろん、現実と虚構の混交というオースター風の特色も見られるのだが、それは本書ではむしろ二次的な要素に限られている。主人公は美術史専門の老教授。その友人の画家が、現実と虚構を結びつけた異様な作品を生みだすのだ。教授は、画家とその再婚相手のモデル、画家が前妻との間にもうけた息子との交流を中心に四半世紀を回想する。冒頭からかなりの速度で物語が進行し、その面白さにどんどん引きこまれる。教授自身の妻と息子も含め、誰もがおおむね幸福だった時代。しかしやがて、過去形の文章にときおり混じる現在形が気になりはじめる。ここで描かれている過去と現在の間には、何かとんでもない事件が起こったのではないか?それが具体化される後半は、非常にリアルでメロドラマティックな展開だ。各人が相手に感じている愛情を殺す背信、無関心、別離、そして死。息もつかせぬ事件の連続で、最後まで一気に読んでしまった。英語も準一級程度で、いくつか難しい単語はあるものの、速読の妨げにはならないだろう。
 そこで、この "The Summer without Men" にも大いに期待して取りかかったのだが…。
 結果は、おとといのレビューに書いたとおりで期待はずれ。Auster のほうが格段にうまい作家だと思う。何よりテーマも技法もありふれていて、「新鮮味に欠ける」のがいちばんまずい。肉親の死や配偶者との別れをきっかけに主人公が内なる彷徨を始める作品といえば、ここ数年にかぎっても、Joanna Kavenna の "Inglorious" や、Joseph O'Neill の "Netherland" 、Michael Thomas の "Man Gone Down" など、すぐにいくつか思いうかんでくる。
 …ここまで書いたらもう暗くなってきた。今日はクリスマス・イブ! これから犬の散歩に行き、そのあとシャンペンを飲むことにしているので、この続きはまた明日にでも。