ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Erin Morgenstern の “The Night Circus” (4)

 つまり、正気であって初めて狂気を理解できるように、現実があるからこそ非現実を、現実と非現実の混淆を楽しむことができる。SFやファンタジーマジック・リアリズムの小説など、非現実の世界を扱った文学作品には間違いなく「一種異様な詩美がある」けれど、「それを味わうのにはこちらが現実の世界に身を置いていなければ始まらぬのだ」というわけである。
 この立場から、ぼくにとってファンタジーのたぐいは、ただの絵空事、摩訶不思議な空想の産物だけでなく、それを読むことによって現実に立ち返る作品であるほうが望ましい。さらに言えば、非現実を描くからにはそれなりの必然性がなければならぬ、ともぼくは考えている。現実を現実のままに描くだけでは描ききれない現実、非現実的な設定によってありありと浮かびあがる現実――もしそういう「非現実の現実」があるとしたら、それを描くところにSFやファンタジーの存在価値があるのではないだろうか。
 …などと大風呂敷を広げてみたが、ぼくはSFもファンタジーも、マジック・リアリズムの小説も数えるほどしか読んだことがなく、上の論はあくまでも、そんな作品が読みたいという願望を述べたものにすぎない。どだい、3つのジャンルを一緒くたにしているのがけしからん、とそれぞれの熱心なファンから叱られそうだ。が少なくとも、『1984年』や『すばらしい新世界』、『われら』など、いわゆる未来社会テーマのSFには「非現実の現実」を描いた秀作がいくつかあることは想起しておきたい。
 そこでこの "The Night Circus" だが…と書きつづけようと思ったが、いかん、もう目が疲れてきた。明日は世間とちがって出勤日なので、そろそろ寝ることにしよう。