ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Levithan の “The Lover's Dictionary” (2)

 昨日はちょっとだけレビューの補足を書こうと思ったのに、家に帰るともうヘトヘト。まるで頭が働かず、ダニエル・クレイグ主演の『007カジノ・ロワイヤル』を観たあと爆睡してしまった。これ、観ている途中で再見であることに気づいたのだが、アクションがすごいし、なかなかイケてますな。ただ、クレイグにボンド役らしい「しゃれっ気」というのか「華」がないのは残念。
 一方、この "The Lover's Dictionary" は「とてもおしゃれな作品」だ。とにかく肩の凝らない内容で、どのページもさっと読めるし、持ち運びにも便利な小型サイズ。「通勤快読」にぴったりです。
 文学的な辞書といえば、かの有名なアンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』がまっ先に思い出され、ほかにもまだ何冊かあるのかもしれないが、辞書形式の小説となると、ぼくは今まで Xiaolu Guo の "A Concise Chinese-English Dictionary for Lovers" しか読んだことがない。昔の記憶をたどりながら急遽採点すると、たぶんこちらのほうが Levithan の作品以上に小説としての「華」があるだろうと思うので、★をひとつオマケすることにした。レビューは再録です。

A Concise Chinese-English Dictionary for Lovers

A Concise Chinese-English Dictionary for Lovers

[☆☆☆★★★] シャオルー・グァオと表記すればいいのか、中国人作家が英語で書いた07年度オレンジ賞候補作。一口に言えば、一年間にわたる中国娘のイギリス語学留学奮戦記で、月ごとに分かれた各章にいくつか基本的な英単語が掲げられ、それにまつわるエピソードがユーモアたっぷりに紹介される。言葉に不自由しながら食生活や言語習慣、要は文化の違いに目を白黒させる主人公。その真剣な姿がかえって笑いを誘うが、評者は途中、漱石の『倫敦塔』を思い出さずにはいられなかった。時代のせいか、国民性の違いのせいか、ここでは漱石が受けたほどの本質的なカルチャー・ショックは描かれない。しかし、そんな比較をするのは野暮だろう。自由を享受し、恋に落ち、セックスに開眼するという流れは青春小説そのもの。それに前述のドタバタ喜劇も混じり、なるほど、こんな語り口なら定番の話でも新鮮に読めるわけだ。やがて二人のあいだに価値観、人生観の相違からきしみが生じると、物語も哀調を帯び、最後は胸を締めつけられるくだりもある。わざと稚拙に書かれた英語が絶妙な効果を上げている。高校の先生方、ここは正しい英語に直せば…などと考えないで下さい。