ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Andrew Miller の “Pure” (2)

 去年の11月にコスタ賞のショートリストが発表されたときは、ブッカー賞を取った "The Sense of an Ending" もノミネートされていることに話題が集中したようだが、ぼくはハナからダブル受賞はないと思っていた。みなさんはブッカー賞というと大騒ぎしますが(ぼくもその一人かも)、ほかにもけっこういい作品がありまっせ、というところにコスタ賞の存在意義がある、と勝手に決めつけているからだ。
 その後、ぼくが知るかぎり、わりと評判がよかった候補作は John Burnside の "A Summer of Drowning" である。同書はガーディアン紙の年間推薦図書にも選ばれている。

A Summer of Drowning

A Summer of Drowning

 というわけで、今年になって長編部門賞が "Pure" に決まったのを知り、ぼくはちょっとビックリした。それが3年ぶりだったか、長編部門から最優秀作品賞が選ばれる運びとなり、興味がわいて着手したのだが…
 結果は期待はずれ。読みはじめてすぐに歴史小説とわかったが、ぼくが歴史小説に期待する3つの要素のどれにも該当しなかったからだ。
 1.知られざる事実もしくは人物に光をあてたものを読み、なるほどそういうこともあったのか、と感心する。もしくは、ダマされる。
 2.おなじみの事実もしくは人物に新しい角度から取り組んだものを読み、なるほどそんなふうにも考えられるな、と感心する。もしくは、ダマされる。
 3.どちらにしても、過去の事件や人物と接することにより、なるほど人間とはこんなことを考えたり行動に移したりするものなのか、と感心する。もしくは、ダマされる。
 これは以前、Peter Carey の "Parrot and Olivier in America" を読んだときに思いついたものだが、あちらも "Pure" と同じく「知的昂奮は皆無」。ただし、物語性という点ではずっとおもしろく、「語り口にプロ作家の熟練の業が光り、饒舌な文体と相まって読みごたえのある作品に仕上がっている」。
 前置きが長すぎたが、要は「期待はずれ」なので仕方がない。「個々のエピソードは…わりあい楽しめる」けれど、青年技師とその昔、ユートピアを語りあった友人が寺男の娘を陵辱する一件など、それまでの友人のキャラからは想像もできないほど唐突で、無理がありすぎる。一事が万事、「突発的で尻切れトンボの事件が多く」、作者は本書を通じていったい何を訴えたかったのだろう、こんな「裏話」を採りあげることにどんな意味があるのか、と疑ってしまう。今年のコスタ賞は、「(ブッカー賞受賞作の)ほかにもけっこういい作品がありまっせ」というわけには行かなかったようだ。7月には "A Summer of Drowning" のペイパーバック版が出るそうなので、そのころまだ憶えていたら読んでみよう。
A Summer of Drowning

A Summer of Drowning