ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kevin Wilson の “The Family Fang” (1)

 Kevin Wilson の "The Family Fang" を読了。去年のタイム誌選定ベスト10小説のひとつで、アマゾンUKの小説部門でも優秀作品に選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本書は2015年、ジェイソン・ベイトマン監督により映画化されました。主演はニコール・キッドマン。日本では未公開でしたが、DVDは発売されているようです)

[☆☆☆★★★] 終始一貫、芸術至上主義を題材にしたファースだが、子どもが親から真の意味で独立する通過儀礼を描いた青春小説でもある。最初は笑いの連続だ。ファング夫妻が未婚のカップルを装って派手なプロポーズ劇など、公共の場でつぎつぎにパフォーマンスを演じ、それを芸術と自画自賛。この「ハプニング芸術」に渋々つきあわされるのが夫妻の子どもたちで、成長した彼らの物語も平行して進む。姉のアニーは半裸姿をネットでさらされたり、弟バスターは「ジャガイモ銃」で撃たれて重傷を負ったりと、こちらも爆笑もののドタバタ劇。ところが中盤、夫妻が謎の失踪を遂げたあと、コメディの要素ものこしつつ、しだいにシリアスな様相を呈しはじめる。両親は何者かに殺害されたのか、それともやはり、またまた十八番のパフォーマンスなのか、子どもたちの心配はつのるばかり。だがこれぞまさしく両親の思うツボ、人生の不安と混沌を彼らに体験させようという意図があるのかも、と解したくなるあたり、なにやらオフビートな不条理劇といえそうだ。しかし一方、それは深読みと思えるフシもあり、結末は予測不能。笑えるという意味でも、フシギという意味でも、とにかくおかしなケッサクである。