ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Arthur Phillips の “The Tragedy of Arthur” (1)

 Arthur Phillips の "The Tragedy of Arthur" をやっと読みおえた。ただし、巻末に収録されているシェイクスピアの(?)戯曲、"The Tragedy of Arthur" は拾い読みした程度なので、以下のレビューはもっぱら、その「序文」を対象としたものである。

The Tragedy of Arthur: A Novel

The Tragedy of Arthur: A Novel

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[☆☆☆★] 技巧的な、あまりに技巧的な作品である。読者の反応まで計算にいれた用意周到な設定で、独創的な仕掛けを複雑精妙に練りあげた手腕はただごとではない。が、その巧みのわざに幻惑されたせいか、心から感動をおぼえることは少なかった。主人公は作者と同名の作家アーサー・フィリップス。彼はまず、自分がシェイクスピアの埋もれた戯曲をいかに発表することになったか、という序文をえんえんと綴る。戯曲の原本は贋作の天才だった父親から渡されたもので、その真偽をめぐる大騒動はすこぶるこっけい。ブランドに弱い世間のスノビズムも読みとれ、本書の白眉である。一方、アーサーは幼年時代からの回想を通じて父親と双子の姉への思いを吐露。愛と憎しみ、怒り、そしてまた愛とつづき、ホロっとさせられるくだりもあるが、要するにホームドラマで感動は薄い。とはいえ、シェイクスピア劇のパスティーシュを導入するための自伝小説という設定は、作者アーサー自身の人生のパスティーシュとも考えられ、家族愛という平凡なテーマを「二重のパスティーシュ」によって表現するとは、たしかに非凡な着想にはちがいない。その超絶技巧を高く評価すべきかどうか。読者を選ぶ問題作である。