ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Running the Rift” 雑感

 今週は一昨年のベルウェザー賞(Bellwether Prize for Fiction)受賞作、Naomi Benaron の "Running the Rift" をボチボチ読んでいた。この賞は日本ではあまりなじみのない賞だと思うが、社会正義の問題を扱った小説を対象に隔年選ばれるもので、2000年からスタート。創設者はあの Barbara Kingsolver である。
 …などと知ったかぶりで書いたが、ぼくもこんな文学賞があるとは09年のアレックス賞受賞作、Hilary Jordan の "Mudbound" を読むまで知らなかった。それが06年のベルウェザー賞受賞作でもあったのだ。08年は Heidi W. Durrow の "The Girl Who Fell from the Sky" が受賞したが、このときもそんなこととはつゆ知らず、去年の今ごろ、ニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門でベストセラーになっているのを見かけて入手。その表紙を見て、ああ、あの賞かと思い出した。どちらも非常におもしろかった。両書ともテーマは人種差別である。
 この "Running the Rift" も、発見したきっかけは賞とはまったく関係ない。今年の1月、米アマゾンの月間優秀作品リストをながめていたら、ハードカバーながら表紙が印象的だったので気になり、ペイパーバック化されるのを待つことにした。で、このほど届いた本の表紙を見て、おや、ベルウェザー賞の受賞作だったのかと知った次第である。
 要は、例によって「見てくれ買い」なのだが、今のところ、上の2つの作品ほどではないけれど、これまたストーリー性抜群でクイクイ読める。どうやら、1994年にルワンダで起きたジェノサイドが扱われているらしい。
 どうやら、と言うのは、冒頭の時代は1984年で、以後、87年、91年と少しずつ進んでいるからだ。主人公は、ツチ族の大学生 Jean Patrick で、彼は少年のころから足が速く、今や800メートルのオリンピック標準記録を突破。ルワンダの代表選手候補と目されている。それゆえ、ツチ族ながら優遇されているのだが、それでも今まで何度か危険な目に遭い…という物語である。
 上の2作のように、のっけからテンションが高いわけではなく、その点ちょっともの足りないが、それがじつは確かな計算にもとづいていることはすぐに読みとれる。緊張がぐっと高まる場面を少しずつ積み重ねていき、やがて最後は…という「ジョーズ効果」でしょう。これからが本番です。