ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Naomi Benaron の “Running the Rift” (1)

 一昨年のベルウェザー賞(Bellwether Prize for Fiction)受賞作、Naomi Benaron の "Running the Rift" を読みおえた。これは今年1月の米アマゾン月間ベスト作品のひとつでもある。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 1994年にルワンダで起きたジェノサイド。本書はその十年前からはじまる。足の速いツチ族の少年ジャンは成績優秀で、大学に進学して競走部に入り、オリンピックを目ざすことに。そこへ突然、フツ族の集団から暴行を受けるなど、大事件の予兆が少しずつ示されるものの、全体の三分の二を占める導入部のテンポはかなりゆるやかだ。純情素朴なジャンは忍び寄る危険を軽視。恋あり友情あり、厳しい練習と手に汗握るレースあり。かりそめの平和がつづき、青春小説の色彩がつよい。しかししだいに政情が不安になり、ついに事件勃発。といっても当初はニュース中心で、さほど強烈なインパクトはないが、やがて加速度的に進行し息苦しくなる。ルワンダ虐殺はちょっと調べただけでも慄然とするような大惨劇であり、本書からもその悲劇性はうかがい知れる。だが、人びとの行動と心理の描写がやや図式的で、思わず胸を打たれる場面もあるものの、ジェノサイドを引き起こす人間そのものの悲劇性については考察が浅い。物語としては各エピソードの配合が緩急自在でウェルメイドなだけに残念。