ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Almost Heaven” 雑感 (1)

 Chris Fabry の "Almost Heaven" をボチボチ読んでいる。帰省中、バッグの底に忍ばせていたのだが、父の葬儀のあとも役所参りなどに追われて結局、荷物になるだけだった。去年のキリスト教図書賞最優秀小説賞 (Christian Book Award for Fiction) の受賞作である。
 この賞は、日本の一般読者のあいだでは、ほとんどなじみがないかもしれない。ぼくもたまたま、2007年の受賞作、Charles Martin の "When Crickets Cry" を読むまで知らなかった。主催しているのは Evangelical Christian Publishers Association という団体で、毎年、キリスト教に関連した優秀な作品に与えられるものだ。小説のほか、聖書や聖書研究書、児童書などの部門にわかれ、大賞も選ばれる。過去の大賞受賞作家には、Karen Kingsbury や Francine Rivers などがいる。
 本書を読んでいて、へえ、と思ったのは、現代文学では珍しく、天使が登場して独白をつづけ、悪魔と戦ったり、上位の天使と話し合ったりもすることだ。今でもあちらには、そういう設定を自然に受けいれる文化的土壌がある証左だろう。アメリカはじつはイスラム諸国以上に宗教国家であるという説もあるようだが、ひょっとしたら当たっているかもしれない。
 その天使に何も知らず見守られ、時には実際に手を貸してもらうのが主人公の Billy で、舞台はウェスト・ヴァージニア州の田舎町。洪水で家をうしない、父親が自殺。母子家庭の孤独な少年だが、幼いころから父にマンドリンを教えてもらい、今や音楽の才能が開花しつつある。が、この先も試練が待ち受けているようだ。
 まだまだ序盤なので、あとは昔書いた "When Crickets Cry" のレビューを再録しておこう。(点数は今日つけました)。

When Crickets Cry

When Crickets Cry

[☆☆☆☆] 涙腺の弱い人は電車の中では読まないほうがいい。かく言う評者もほとんど車内の読書だったが、何度か目頭の熱くなる場面があり、そのたびに困ってしまった。舞台はアメリカ南部、ダムの人造湖に面した田舎町。通りでレモネードを売っている少女が交通事故に遭い、それを主人公の男がなぜか豊富な医学知識を発揮して助ける。男は何者なのか? 男には義弟がいるのだが、その弟は盲目。視力をうしなった原因は男に関係があるらしい。そもそも、男の妻はどうしたのか? こういった謎が少しずつ解明され、人物関係がわかったところで以後の展開、結末が読めてしまうのが欠点といえば欠点だが、それでも本書が深い感動を与えるのは、男や妻、心臓病患者である少女のちょっとした言葉に、愛する者へのひたむきな思いが凝縮されているからだ。最後に出てくる妻の手紙など、涙なしには読めない。結末が読めると書いたが、じつは終盤、え? と思わせる展開もあって目が離せない。『きみに読む物語』や Justin Cronin の "The Summer Guest" と似た味わいの、いわゆる難病物の秀作である。医学関係の用語を除けば、英語はごく標準的で読みやすい。