ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Hilary Mantel の “Bring up the Bodies” (3)

 レビューにも書いたように、本書は「前王妃キャサリンの他界、アンの流産、ヘンリーと女官ジェイン・シーモアの密通と、なんのケレンもなく史実どおりに進む」。ぼくはその流れを追いながら、それが史実を小説化したものにすぎない点にいささか不満を覚えた。
 たしかに「間然とするところのない構成で緻密な描写も健在」ではあるのだが、この事件では実際、この人物はこうしゃべり、こんな行動を取ったかもしれないな、と一般読者に思えるような範囲でしか肉付けされていない。いかにもリアルで的確なのはいいのだけれど、たとえば “Wolf Hall” において、キャサリンがヘンリーとアンの密通をクロムウェルに知らせた場面のように、読んでいて思わずニヤっとする「裏話、楽屋話」のたぐいはほとんどない。だから、ぼく自身は前作の余韻もあって「いちおう楽しんでいるけれど」、もし本書から先に取り組んだとしたら、「こんなもの、ほんとにおもしろいのかな」と疑問に思ったのである。
 それからさらに、ここには “Wolf Hall” とちがって、サクセス・ストーリーやホームドラマとしてのおもしろさもない。クロムウェルが前作で宮内長官となり、また妻と娘たちを亡くした後日談ということで無理もないのだが、おかげで本書が「なんのケレンもなく史実どおりに進む」、変化に乏しい作品となってしまった点は否めない。
 …トマス・モアの不在について述べる時間がなくなってしまった。明日は父の四十九日の法要で、これからお寺に行かないといけない。それにしても、ケータイで書くのはえらく大変ですな。