ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

英連邦図書賞発表/Anne Tyler の “The Beginner's Goodbye” (1)

 周知のとおり英連邦作家賞(Commonwealth Writer's Prize)が今年から、新人賞に相当する英連邦図書賞(Commonwealth Book Prize)と、すぐれた短編に与えられる英連邦短編賞(Commonwealth Short Story Prize)に変更され、いささか旧聞に属するが、図書賞のほうはスリランカの作家 Shehan Karunatilaka の "Chinaman" に決定した。ただの直感ですが、ひょっとするとこれ、今年のブッカー賞候補作に選ばれるかもしれませんな。(その後の調べでハードカバーは去年発刊とわかり、今年の候補にはアウトでした)。

 さて、今日はアン・タイラーの最新作、"The Beginner's Goodbye" を読了。さっそくレビューを書いておこう。
The Beginner's Goodbye (English Edition)
[☆☆☆★★] 妻が死後一年たって生きかえり、夫の前に姿を現わした、というショッキングな出だしだがオカルト小説ではない。真相はともあれ、その驚くべき事件をきっかけに、夫は妻との出会いや結婚生活のことを回想する。一方、ふだんは口やかましい姉をはじめ、友人や隣人、会社の同僚などがなにかと気をくばりだす。夫婦愛をテーマにしたアン・タイラー十八番の家庭小説とすぐにわかるのが難点だが、涙を禁じえない場面でも甘ったるさがなく、感情を抑えた筆致がすばらしい。それだけになおさら、妻を思う夫の心情がしみじみと伝わってくる。よみがえった妻がほんとうにゴーストかどうかはさておき、まさにハートウォーミングな佳作である。