ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Georgina Harding の “Painter of Silence” (1)

 今年のオレンジ賞最終候補作、Georgina Harding の "Painter of Silence" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

Painter of Silence

Painter of Silence

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[☆☆☆★] 古き佳き時代、青春、そして戦争の記憶をタペストリーのように綴ったノスタルジックな小説。第二次大戦から十年たったルーマニアの街の病院に聾唖の青年が運びこまれる。息子が戦争から帰ってこない中年の看護婦が同情し、青年と幼なじみだった若い看護婦が戦前の思い出にふける。回想を通じて各人物の心の傷がしだいに浮かびあがり、終幕で一転、再生への希望が示されるという定番の流れだが、題名どおり、青年が無言のうちに描きだす室内や建物、自然の風景、人物などの特異な絵と、紙や布でつくった人形を通じて、個人および国家の歴史が物語られるところがハイライト。幼なじみの娘と再会するまでの出来ごとを絵によって懸命に伝えようとする青年の姿に胸を打たれる。惜しむらくは、中盤までテンポがゆるやかで冗漫な描写も目だち、視点の分散が物語にふくらみを与えるというより、かえって散漫な構成となっている点。「沈黙の画家」の半生記だけでじゅうぶんだったのではないか。