ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Penelope Lively の “How It All Began” (1)

 Penelope Lively の最新作、"How It All Began" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] ペネロピ・ライヴリー健在なり! 小品ながら文字どおり「小の説」という小説の極致をきわめた佳篇である。冒頭、ロンドンの路上で七十代の老婦人シャーロットが強盗にあう。このちょっとした事件をきっかけに、彼女の周辺へと波紋が広がっていく。現われるのは彼女の娘ローズとその夫をはじめ、シャーロットから英語のレッスンを受けている移民の男性、ローズが個人秘書をつとめる年老いた歴史学者、その姪、姪と不倫関係にある男、その妻、老学者にとりいる野心家の青年などなど。彼らの立てるさざ波はどれもコップのなかの嵐にすぎないが、各人物の性格造形が的確で、むだな描写は一語たりともない。人生論や、老いの問題への言及も、物語の肉づけとして必然性がある。こっけいな出来ごとと、しみじみとした情感あふれる場面が交錯し、変化に富んだエピソードがつぎつぎに小気味よく飛びだしてくる。まさに緩急自在の名人芸である。