ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Audur Ava Olafsdottir の “The Greenhouse” (1)

 アイスランドの作家 Audur Ava Olafsdottir の "The Greenhouse"(2007)を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆] みずみずしいタッチで描かれたシンボリックな自己発見の物語である。感服した。年老いた父と自閉症の弟をのこし、荒涼とした溶岩平原をひとり旅立つ青年ロビ。母親を交通事故で亡くしたばかりの心象風景だ。当初は旅の行き先も目的も不明だが、この設定も、とくに人生の目標がなく、女と衝動的に関係し、子どもをもうけたものの未婚というロビの中途半端な状況とみごとに一致している。やがてロビは南欧らしい村の修道院に住み、世界的に有名なバラ園の修復にとりかかる。そこへ上の女が赤ん坊を連れて現われ、奇妙な共同生活が開始。この仮住まいももちろん、自分の将来を決めかねているロビの心理をよく反映したものだ。以後の展開は定石どおりだが、とにかく終始一貫、清涼な空気を思わせるような透明感のある文体がすばらしく、描きだされる微妙な心象風景にふと眺めいってしまう。とりわけ、ほほえましい光景に心がなごみ、さいご、ロビが丹精こめて育てた赤紫のバラが目にしみる。彼が自分の人生にコミットしようと決意を固めた一瞬である。みごとな幕切れだ。