ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Audur Ava Olafsdottir の “The Greenhouse” (1)

 アイスランドの作家 Audur Ava Olafsdottir の "The Greenhouse" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

The Greenhouse

The Greenhouse

  • 作者: Audur Ava Olafsdottir,Brian FitzGibbon
  • 出版社/メーカー: AmazonCrossing
  • 発売日: 2011/10/11
  • メディア: ペーパーバック
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[☆☆☆☆] みずみずしいタッチで描かれたシンボリックな自己発見の物語である。感服した。年老いた父と自閉症の弟をのこし、荒涼とした溶岩平原をひとり旅立つ青年。母親を交通事故で亡くしたばかりの心象風景だ。当初は旅の行き先も目的も不明だが、この設定も特に人生目標がなく、女と衝動的に関係し、生後半年の赤ん坊がいるものの未婚という青年の中途半端な状況とみごとに一致。やがて青年は南欧らしい村の修道院に住み、世界的に有名なバラ園の修復にとりかかるが、そこへ関係した女が赤ん坊を連れて現われ、奇妙な共同生活がはじまる。この仮住まいももちろん、自分の将来を決めかねている青年の心理をよく反映したものだ。以後の展開は定石どおりだが、とにかく終始一貫、清涼な空気を思わせるような透明感のある文体がすばらしく、それが描きだす微妙な心象風景にふと眺めいってしまう。とりわけ、ほほえましい光景には心がなごみ、最後、青年が丹精こめて育てた赤紫のバラが目にしみる。青年が自分の人生にコミットしようと決意を固めた一瞬である。みごとな幕切れだ。アイスランド語からの英訳で、英語はとても読みやすい。