ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Audur Ava Olafsdottir の “The Greenhouse” (2)

 印象的なカバーに惹かれ、内容紹介も読まずに本を買う「見てくれ買い」、今回は大ヒットでした! しかも、ストーリー重視型の文芸エンタメ路線ではなく、表現重視型で文学の香り高い作品だったことがうれしい。
 とにかくこれは、読みはじめたときから「清涼な空気を思わせるような透明感のある文体」に惹きつけられた。おまけにそれが本書の内容、そして主人公の青年の心情とよくマッチしている点にだんだん気がついた。
 ぼくはいつもだいたい、ネットの紹介記事はおろか、裏表紙の粗筋紹介さえ読まずに取りかかるので、最初はどんなお話かピンとこないことが多い。が一方、次第にヴェールがはがされるプロセスをじっくり楽しむことができる。本書の場合、青年は当初、どこからどこへ何をしに出かけるのか明示されないまま、とにかく「荒涼とした溶岩平原をひとり旅立」っていく。その光景が「母親を交通事故で亡くしたばかりの心象風景だ」とあとで気がつくわけだが、うむ、なあるほどね、とわかったときの喜びは大きい。(そんな読み方をしている人間がブログで紹介記事を書き、他人の読書の感興を削いでいるのだから何をか言わんやですな)。
 ともあれ、本書は心象風景を、その描き方を味わうべき作品だと思う。テーマは青年の自己発見という平凡なもので、展開も定石どおりではあるが、それを欠点と感じさせないだけの「みずみずしいタッチ」、「透明感のある文体」で描かれた情景がすばらしい。その最たる例が幕切れで、「青年が丹精こめて育てた赤紫のバラが目にしみる」。この話はこんなふうにしか終わりようがないだろう。読了後、久しぶりに溜息をついてしまった。