ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Cynthia Ozick の “Foreign Bodies” (1)

 今日も帰りにスタバに寄り、Cynthia Ozick の "Foreign Bodies" をようやく読了。今年のオレンジ賞最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] ふとした偶然の出来ごと、そしてもちろん大事件によって、それまで曲がりなりにも平静を保っていた心が動揺し、自分の存在の基盤を確認ないし回復、あるいは発見しようと悪戦苦闘する。本書の主人公ビアトリスをはじめ、彼女が出会う人びとはそんな自分探しの旅をつづけている。もはや目新しいテーマではないが、本書の場合、1950年代初めのパリとニューヨーク、ロスが主な舞台とあって、各人物の動揺がそのまま当時の混乱した世相を反映している点に重みがある。彼らの苦悩は、もっぱら親子や兄妹、夫婦などの愛憎にまつわるもので、その意味ではメロドラマの域を出ないが、それぞれの性格・心理描写がじつにみごと。鋭い知性と繊細な感覚に裏づけられた詩的かつ格調高い文体により、微妙な心の動きが丹念に綴られていく。ゆえに物語の進行はゆるやかで、けっして読みやすくはないが、アイデンティティの希求からエゴイスティックな内面の呵責なき追求がはじまる過程は圧巻。読者もまた自己省察へと駆られるのではなかろうか。