ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Coward's Tale” 雑感 (1)

 ブッカー賞ロングリストの発表が近づいてきた。現地のファンのあいだでは色々な噂が飛びかっているようだが、刊行時期の関係で候補作の資格があると言われている本の中で、ぼくが今まで読んだのは Hilary Mantel の "Bring up the Bodies", Georgina Harding の "Painter of Silence", Penelope Lively の "How It All Began", M. L. Stedman の "The Light between Oceans" の4冊だけだ。まことにお恥ずかしいかぎりだが、これでもぼくとしては例年になく多い。
 この中で実際ロングリストに選ばれるかも、と今ふりかえって思うのは Mantel と Lively で、ぼくのゴヒイキは Lively のほうだが、どちらもショートリストには届かないような気がする。ともあれ、これは抜群にいいと思える作品にはまだ出くわしていない。
 そこで下馬評に上がっている本をあれこれ検索したところ、ざっと100冊以上もあってキリがない。ビッグネームの作家に絞っても、Nadine Gordimer をはじめ、Peter Carey や John Banville, Ian McEwan, Pat Barker など過去の受賞作家のほか、最近のショートリスト作家だけでも、Simon Mawyer や Philip Hensher, Nicola Barker, Kate Grenville, Zadie Smith など、さながらキラ星のごとし。これらを発表前にぜんぶカバーするのは不可能だし、どれか1冊選ぶにしても目移りしてしまう。
 というわけで、貧乏カネなしのぼくは新たに注文せず、すでにペイパーバックが出ているという理由だけで前に買っていた Vanessa Gebbie の "The Coward's Tale" を読むことにした。今はまだほんの序盤だが、これ、かなりいいですな! 長編というより連作短編集のようなおもむきで、タイトルどおり Coward の異名をとる乞食の老人が、町の住人にまつわる話を次々に物語る。登場する住人はいっぷう変わった人物ばかりで、たとえば「第1話」では、木工の教師が長年、木片を削って羽のように空中を浮遊させようと試みている。語り口もリズムがあってフレッシュで、なかなか好感が持てる。さてどうなりますか。