ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ismail Kadare の “The Palace of Dreams” (1)

 アルバニアの有名な作家 Ismail Kadare の代表作のひとつ、"The Palace of Dreams" を読みおえた。原作は1981年に出版され、英訳は同93年刊。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 恐怖の全体主義体制と、それを支える情報機関を諷刺した寓話小説だが、民族の伝統文化の継承を訴えた側面もある。広大な帝国の全国民の夢を毎日収集・分析した結果、国家の平和と安全にかかわる重要な夢を国王に報告する〈夢の宮殿〉。そこに名家の出だがうぶな青年マルク・アレムが赴任する。宮殿はミステリアスな雰囲気につつまれ、カフカ的な不条理の世界を思わせるが、やがて上の諷刺がすぐに読みとれる。「なにもかも愚の骨頂だ」と叫ぶアレムのことばを待つまでもなく、国民の夢の分類や解釈がおよそナンセンスな作業であることは明々白々。経験の浅いアレムが名門出身というだけで昇進し、ひとつの夢によって人間が処刑され、権力闘争も発生。かくて夢の宮殿は、国家の最高機関となり恐怖省となる。そのわりに緊張が高まらずサスペンスに乏しいのは、ひとつには設定や筋立ての意図が明確すぎるからだが、言論の自由のない国に住む作家にとっては、こうした小説を書くこと自体が勇敢な冒険であり、決死の覚悟で国民の声を代弁するものであることを忘れてはなるまい。なお、全体主義民族主義の対立がうかがえる点もあり、本書刊行後のバルカン情勢を思わせ興味ぶかい。英訳にしては入り組んだ文が多いが、原文をよく反映した文体ではないかと想像する。