ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Rachel Joyce の “The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry” (1)

 今年のブッカー賞候補作、Rachel Joyce の "The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry" を読了。さっそくレビューを書いておこう。(後記:本書は2023年、ヘティ・マクドナルド監督作品として映画化され、日本でも公開されました。邦題は『ハロルド・フライのありそうでない巡礼』)。

[☆☆☆★] 喪失と断絶、そして和解がテーマのロード・ノヴェル。イギリス南部の町に住む老人フライのもとに、遠い昔親交のあった女クィーニーから手紙が届く。ガンを患い、北部の町のホスピスに入院しているという。フライは衝動的に、歩いて見舞いにいこうと決心、500マイル以上にもおよぶ旅に出る。自分が歩きつづけるかぎり女は生きている、と信じるフライ。感動的な奇跡の物語といいたいところだが、その後の展開も結末もおおむね予想がつき、「奇跡」とは思えない。道々フライが人生をふりかえるのも定石で、心優しかったクィーニーをはじめ、いまやすっかり疎遠の妻と息子など各人物の性格も類型的。お涙頂戴式ではないにしても感傷的で甘ったるく、かつ大同小異の描写のくりかえしに退屈してしまう。求道者のごとく歩きつづけるフライに共感し、大勢の人びとが巡礼に参加するくだりなど、型どおりの展開に目先の変化をつけたものにすぎない。ただ、ちょっとした心のふれあいに見るべきものがあり、胸を打たれる言葉や場面も散見される。重箱の隅をつつかないほうが楽しめそうな水準作である。