ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alison Moore の “The Lighthouse” (1)

 今日はもともと、昨日の続きで "Narcopolis" の落ち穂拾いをするはずだったが、つい先ほど、同じく今年のブッカー賞候補作、Alison Moore の "The Lighthouse" を読了。記憶が薄れないうちにそのレビューを書いておくことにした。

The Lighthouse

The Lighthouse

[☆☆☆☆] 幕切れ寸前、ミステリでもないのに高まるサスペンスに心臓がドキドキ。茫然としながら最後の章を読みおえた。2つの流れがいつかは結びつくものと思っていたが、まさかこうなるとは。人生の断面を鮮やかに切りとった、とてもウェルメイドな小品である。夏の終わり、イギリスの中年男が休暇を利用してライン川ぞいのハイキングに出かける。道々思い出すのは、最近別れたばかりの妻や、少年時代に離婚した両親、幼なじみの友人とその母など。どの場面でもまず男の行動が淡々と描かれるうちに、灯台を模した香水瓶やタバコ、懐中電灯などが引き金となり回想が始まる。この小道具の使い方がじつにうまい。男の孤独な匂いもいい。また過去・現在を問わず、各人物の微妙な心理のからみあいから生じる静かな緊張感がみなぎり、ホームドラマ、メロドラマとわかっていても終始釘づけにされる。一方、男が最初に泊まった小さなホテルでも、浮気女を中心に〈心のさざ波〉が静かにうねりつづける。胸を打たれる感動的な物語というほどではないが、少年の心をうしなわない男の人生を香水の瓶が象徴しているように、行間に深い余韻のある佳作である。英語は標準的で読みやすい。