きょう愛媛の田舎から横浜に帰ってきた。昨日は友人の車で高知の中土佐町まで出かけ、久礼の〈黒潮本陣〉で鰹たたき定食を満喫。とろけるような味だったが、友人によると、戻り鰹の季節がいちばんうまいと言う。帰りは四万十川沿いの道を走り、有名な岩間の沈下橋を見物。きょうはきょうで、久しぶりに松山城に登城。天下の名城です!
というわけで、巻頭の短編 "A Nasty Anecdote" を読みおえたのは遅れに遅れ、羽田までの機内だった。ドタバタ喜劇とも言える内容だが、やはり人間性にかんする洞察がハンパではない。政府の高官が酔った勢いで部下の結婚式に押しかけ、酔いつぶれて醜態をさらすというもので、この高官 Ivan Ilyich は人類愛に燃え、「思いやりが来たるべき改革のかなめ」であると公言する進歩派である。が、その美辞麗句の裏には、みずから部下を思いやる上司であることを立証しようとする独善的な下心がある。
だが一方、Ivan には下心だけでなく、それを自覚する良心もあり、善悪ふたつの感情の振幅が激しい。まさに極端から極端へと揺れ動いている。その葛藤からドラマが生まれているところにドストエフスキーらしさがあるように思う。ともあれ、他人に思いやりを示すのは善行だが、その思いやりにもエゴイズムがひそんでいる。苦い真実である。ほかにも打算や欲望など、このドタバタ喜劇で描かれている人間の諸相はかなりおもしろい。