ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Teleportation Accident” 雑感 (2)

 中盤を過ぎたあたりで、ようやくSFらしくなってきた! いちばん出番が多いという意味で主人公の Egon Loever が愛する女 Adele Hitler (あのヒトラーとは無関係) を追いかけ、ベルリンからパリへ、さらにロサンジェルスと移動。そのロスの大学で、Dr. Baley という物理学者が teleportation device を開発中で、Adele がなんと実験助手をつとめている。
 今読んでいるくだりは teleportation device の原理にかんするものだが、それはSFでおなじみの〈疑似科学〉というやつなので、まあ、どうでもいい。が、H. P. Lovecraft の作品が一枚かんでいるのにはビックリした。熱心なファンには申しわけないが、ぼくは Arkham House 社版のハードカバー短編集を2冊もっているものの、学生時代から積ん読中なので、Lovecraft がどうして teleportation と関係するのか説明を読んでもよくわからない。でもきっと、この拙文だけでピンとくる人もいるはずだ。要は疑似科学の一環だろうが、それにしてもヘンテコな流れです。
 そう、これはやっとSFらしくなったものの、まことにケッタイな小説というのが本質かもしれない。序盤のベルリンに引きつづき、パリでもロスでもドタバタ調の喜劇が連続する。女性の若返り手術にサルの睾丸と称してライチーの実を使ったり、室内にポルターガイストらしきものが出没するので亡霊探知機で調べてみたり、といった例を挙げればどんな雰囲気か想像がつくだろう。
 ビルの屋上に突如、T型フォードが出現するといった、何やら『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を思わせるような事件が起こったり(teleportation と関係ありそうですな)、場面が現在からパッと過去に teleport したりと、内容的にも話法的にも混沌としたハチャメチャな世界が生まれつつある。伝統的な小説作法とは明らかに異なり、こういう一種の実験小説が大好きな人もいるはずだ。さて、どんな結末になるんでしょうか。